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M1 Mac のゲーム導入ノウハウについて解説する特別連載,第 3 回の今回は M1 Mac の様々な機種やオプションの中から,ゲームを楽しむにはどれを選ぶべきか考察してみましょう。これから M1 Mac をご購入される方はもちろん,すでにご購入された方もお持ちの機種を活かしてゲームを快適に利用するヒントとしてご参考にしてみて下さい。
目次
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Mac 以外にもゲームプラットフォームが充実している昨今,あえて Mac でゲームをプレイする人のほとんどは普段使いのパソコンでゲームをやりたいという理由で Mac を使っているのであって,ゲームを主目的に Mac を選ぶ人はごく少数かと思います。そう言った意味では,M1 Mac のどの機種を選ぶかは,普段の用途に適したモデルを選ぶのがベストだと言えます。
幸いにも現在販売されている M1 Mac は,いずれも同じ M1 チップを搭載しているので,どのモデルであっても普通にゲームをプレイする分には十分なスペックがあります。MacBook Air の下位モデルのみ GPU が 1 つ少ない 7 コア仕様になっていますが,そもそも MacBook Air は GPU 能力の限界よりも排熱能力の限界の方が先に来るので,一般には性能に差が出るケースは限られます。
よって,予算に余裕がないのでしたら普段仕事なりパーソナルなりの Mac 使いに必要な最低限のスペックのモデルを選んだとしても,ゲームに不自由することはありません。
とはいえ,もし予算に余裕があるのでしたら,まずは内蔵 SSD の増量を考えるべきです。最近のハイスペックなゲームは 100 GB 近いディスク容量を要するものも珍しくなく,デフォルトの 256 GB では 2〜3 タイトルインストールしただけでディスクを使い切ってしまうということもあり得るからです。
Mac mini であれば外付けディスクで対処するというのもありですが,その場合は高速化された内蔵 SSD の恩恵は受けられません。また,Mac App Store のアプリケーションなど内蔵ディスクにインストールすることを前提とするものもありますので,内蔵ディスクは大きいに越したことはありません。
では,どれだけ容量があれば十分かと言うと,それこそゲームを何十タイトルもインストールするようなヘビーな使い方だと 2 TB あっても足りなくなるでしょう。ディスクというものは油断してると,あまり使わないファイルでどんどん埋め尽くされてしまうものだからです。
インストールするゲームを選んで上手くやりくりするのが,M1 Mac の優れた SSD を有効に活用するコツです。ビデオ編集もやりたいとかいった普段の用途に必要でもない限り,512 GB もあれば充実したゲームライフを送るのには十分でしょう。
主なゲームソフトのインストール容量。全部インストールすると 256 GB は軽く超えてしまう。 |
メモリーについては,通常の使用やゲームのプレイには 8 GB あれば十分との報告が多く聞かれます。実際,M1 Mac ではメモリー関連処理が最適化されており,メモリースワップに使われる内蔵 SSD の高速化も相まって,従来の Intel プロセッサー搭載機と比べ最低限のメモリー領域を効率的に活用するのに長けているからです。
ただ,ユニファイドメモリーではメインメモリーの空き領域がそのまま VRAM として使える点を忘れてはなりません。メモリーを 16 GB に増量しておけば,ほとんどのケースで描画速度を一切下げることなくテクスチャー品質を最大限に上げることが可能となります。そのため,特にテクスチャーリッチなゲームにおいて M1 チップの持ち味が十分に活かせることになります。
単純にメインメモリーを +8 GB 増設するだけなら差額の ¥22,000 はボッタクリ感ありますが,増設するのが VRAM だと考えれば決して高い買い物ではありません。
フライトシミュレーターの X-Plane 11 でテクスチャー品質(質感)を最大にすると,テクスチャーデータが 5 GB を超えることがある。 |
実メモリーのほとんどは X-Plane のテクスチャーデータとシミュレーション演算領域が占めることになるが,メモリーが 16 GB あればスワップと圧縮はほとんど発生しない。 |
メモリー 16 GB なら巨大なテクスチャーを扱っても描画性能に影響することは全くない。テクスチャー品質を最大にしても他の設定値を適切に吟味すれば確実に 60 fps 以上は叩き出せる。 |
ただ,メモリーが 8 GB しかないからといってゲームのプレイに大きな支障が出るかというと,そんなことはありません。M1 チップの洗練されたメモリーハンドリングは,VRAM 領域に対しても有効に働き,空き領域以上のテクスチャーデータをロードしたとしても,一般の独立型 GPU のように描画速度が極端に低下することはないのです。
M1 Mac では VRAM 領域が不足する場合,システムやアプリケーションが確保している不要不急なメモリー領域をディスクにスワップしたり圧縮したりすることによって,描画処理に必要な最低限の VRAM 領域を確保するようにできているからです。実際には多少の速度低下は認められますが,それは他のグラフィック設定を調整することで十分にカバーできる範囲ですので,一般的なゲームのプレイには実用上問題はないでしょう。
VRAM 不足の状況を再現するため,裏で別のゲームを起動してメモリーを圧迫してみた。案の定,実メモリーの奪い合いが始まり,盛大にスワップと圧縮が発生した。従来の Intel Mac ならまさしく火の車な状況である。 |
驚いたことに,こんな逼迫した状況でも描画速度が大幅に低下することはなく,体感上その影響は皆無であった。M1 Mac が少ない VRAM 領域を華麗にやりくりできていることを実証する結果となった。 |
MacBook Air の場合は,GPU を 7 コアにするか 8 コアにするかというのも悩みどころです。最近のグラフィック主体のゲームでは GPU の性能がプレイの快適さに直結しますので,理論上は 8 コアの方が理想的なのは言うまでもありません。
しかし,MacBook Air は熱的な制約で 8 コア GPU を 100 % フルに動作させ続けるのが難しいことも考慮すべきです。そのため,普通にゲームをプレイする分にはその違いを体感することはないでしょう。
なお 7 コアを選ぶにしろ 8 コアを選ぶにしろ,M1 チップの GPU は常時 100 % で稼働させるのにあまり適してないことは知っておくべきです。従来の独立型 GPU のように電力を湯水のように使い常時フル性能でブン回すだけでは,M1 チップの真の実力を引き出すことはできないのです。
例えば 7 コアで 100 % 使い切る処理は,8 コアだったら 88 % に抑えることが可能です。この 12 % の余裕は,例えばバトルゲームで突然近接戦闘が発生したり,ストラテジーや RPG で大規模イベントが発生したりした場合など,重要局面での瞬発力に威力を発揮するわけです。
もちろん,そのためにはフレームレート制限や VSYNC など適切な設定で,平常時の GPU 負荷に余裕を作る必要はあります。そのような M1 チップの特性や設定ノウハウを十分理解した上でゲームをとことんやり込みたいというのであれば,8 コア GPU の差額 ¥5,500 も無駄な投資にはならないでしょう。
MacBook Air の 8 コア GPU は熱的な影響を最も受けやすいので余裕を持った設定が肝要。画面は Shadow of the Tomb Raider の設定例で,解像度は極力控え目に,VSYNC(垂直同期)は「リフレッシュレート半減」で 30 fps に固定している。 |
平常時は GPU に余裕を持った設定にしておけば,近接戦闘や大規模イベントなど瞬間風速的な状況で 8 コア GPU の能力が最大限に発揮できる。肝心な場面で描画がカクついて戦闘困難な状況に陥ることもない。 |
画面右上が GPU 使用率を表したグラフ。7 コア GPU では常に一杯一杯の処理であっても,8 コア GPU なら一時的な高負荷くらいは十分対処できる。 |
普段使いの用途に合ったものとは言っても特に具体的な目的はなくて,そろそろ新しい Mac が欲しいけどせっかくなら話題の M1 Mac をというのなら,機種選びに迷うこともあるかと思います。そこで,あえてゲームのために M1 Mac を選ぶとしたら,どれを選ぶべきなのでしょうか。
性能面だけを考えれば,排熱能力に優れた Mac mini がベストチョイスかも知れません。マウスやキーボードやモニターも eスポーツ用の優れたものを自由に選んで組み合わせることができます。
しかし,デスクトップで良いのならゲーミング PC やゲーム専用機など Mac 以外にも選択肢はあります。また,省電力性に特化した M1 チップが本領を発揮するのは,やはり MacBook Air/Pro のようなラップトップ機であり,どこでも好きな時にゲームができるというのも何にも代え難いメリットです。
では,MacBook なら Air にすべきか Pro にすべきかという点で言えば,ピーク性能の維持力においては MacBook Pro の方が優れており,バッテリー容量が大きいこともあって,ハイスペックなゲームを自宅でも外出先でもやり込みたいというなら MacBook Pro を選ぶ理由にはなります。ゲーム中にファンが回り出すというデメリットも,従来の Intel MacBook や Windows ラップトップのようにけたたましく鳴り出すというレベルにはなりません。
ただ,MacBook Pro はゲームで頻繁に使うことになるファンクションキーをタッチバーで操作することになり,ものによっては操作に難儀する可能性があります。また,パームレストの縁が嵩高になってるのをゲーム操作の邪魔と感じる人もいるかも知れません。
独断を承知で申し上げるなら,特定の機種を選ぶべき理由もなく選択に迷ったのなら,ゲーム用途に限らず MacBook Air を選んで間違いはないと思います。他の機種と違い Intel 版の従来機と比べても不足しているものは外付けモニターの対応台数以外にはなく,現行モデルが既に製品として完成されていると考えられるからです。
ところで,意外と忘れ去られがちなキーボードの選択ですが,特に普段使いに差し支えないのなら JIS キーボードよりも US キーボードの方がゲームには使い勝手が良いことも覚えておいて下さい。特に海外製ゲームソフトの場合,操作上重要なキーの配置が US キーボードを前提として設定されている場合が多いからです。また [=] キーや [`] キーを [shift] を使わずに押す必要のある場合もあり,キー設定を修正するのが案外面倒です。
JIS キーボード(上)と US キーボード(下)を比較すると記号類の配置がかなり違うが,海外ゲームを主にやるなら US キーボードの方が使い勝手は良い。[control] キーの位置と [⏎] キーの大きさは好みが分かれる。 |
なお,現在お使いの Intel Mac やゲーミング PC でのゲーム動作に特に不満がない場合や,現在の M1 Mac の性能にあまり魅力を感じないのでしたら,今は買い時ではありません。今後登場が予想される新しい Apple Silicon チップセットを搭載した MacBook Pro の上位機種や iMac を見極めてからでも遅くはないからです。
M1 チップの後継と目される新しいチップセットのスペックについては,消息筋から様々なリーク情報が流れていますが,中には GPU の大幅なアップグレードを挙げているものもあります。もしその予測が的中するなら,GPU 能力としては最新の独立型 GPU に迫るもので,それを搭載する Mac 上位機種は本当の意味でゲーミング PC に代われるものになると予想されます。
さらに,2022 年に登場すると言われているハイエンドの Apple Silicon Mac Pro は,最大 128 コアの GPU を搭載するとも噂されており,それが現実になるなら一般のゲーム向け GPU でこれに敵うものはもはやありません。ただ,ゲームを目的とするならいささかオーバースペックであり,プロフェッショナルな用途として必要でもない限り購入検討の対象とすることはないでしょう。
機種選定まとめ
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購入すべき M1 Mac は決まりましたか? だけどハードがあってもソフトがなければそれはただのスタイリッシュな俎板です。次回は M1 Mac に合ったゲームの探し方や,その入手方法について解説します。Mac を使うのは初めてという方や,M1 Mac を入手した機会に久々に Mac でゲームをやりたいと考えている方なら,最近の Mac ゲーム事情について知りたいことと思います。Intel Mac の頃からゲームをやり尽くしているという方も,M1 Mac の性能を実感するにはどんなゲームを試せばいいのか気になるところです。
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