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M1 Mac のゲーム導入ノウハウを解説する特別連載,第 5 回の今回はゲームソフトで M1 Mac の実力を十分に引き出すためのグラフィック設定を,主に性能面から追及してみたいと思います。技術的に踏み込んだ内容になりますが,あらゆるゲームに応用できる基礎知識として覚えておいて損はありません。
目次
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M1 Mac のグラフィック処理は従来の Intel Mac とは動作特性が著しく異なるものとなっていますが,既存ゲームのグラフィック処理は一般には Intel プロセッサーと既製 GPU の特性に合わせて設計されています。そのため,M1 Mac でゲームのグラフィック設定をする際には,デフォルトやプリセット設定のままでは M1 チップの性能を十分に引き出すことはできません。
また,一般にパソコン用ゲームソフトの最高グラフィック設定は,発売時点で普及している最上位機種の性能に合わせて設計されています。一昔前に発売されたゲームソフトなら最高設定でも快適にプレイできるでしょうが,最近のゲームでは多くの場合 M1 チップの処理能力の限界を超えてしまうでしょう。
そのため,M1 チップと相性の良い設定項目を見極めた上で,下げるべきところは割り切って下げ,上げられるところは大胆に上げていくのが設定の基本になります。どの設定項目が M1 チップと相性良いのかはゲームの処理方式によって様々な違いがありますが,一般的な傾向としては画面解像度は必要最小限に,代わりにテクスチャー品質は思い切って最大値に設定するのがお勧めです。
画面解像度はゲーム画面の品質を数字で端的に表すのに便利なため,しばしば必要以上に重要視されがちな設定項目です。しかし,M1 Mac においては最も描画速度に悪影響を及ぼす項目でもあります。M1 チップの特性として,画面解像度を上げれば GPU の過負荷を招きやすく,描画速度が極端に落ちる傾向があるからです。
確かに,静止画で注意深く比較すれば解像度が高い方が細部が鮮明に描写されていることは分かります。しかし,動きが激しい状況やゲームに集中している状態では,画面のディテールにまで意識が向くことはあまりなく,ゲームを実際にプレイした体感としては GPU の負荷に見合うほどの効果があるかは疑問です。
あえて画面解像度を上げるのなら,まずは他のグラフィック設定項目を充実させてからでなければ無意味です。ただ,最近の多くのゲーム場合,そのレベルまで持っていくには M1 プロセッサーでは力不足であることは否めません。
具体的な設定としては,情報画面や GUI の使い勝手が損なわれるなど特別な事情がない限りは,MacBook Air/Pro ならデフォルトの 1440×900,Mac mini なら 1980×1080 もあれば十分だと思います。処理が重いと感じられるなら,1280×800 ないし 1280×720 くらいまで下げてもゲーム世界を堪能するのに支障はありません。適切な設定オプションがない場合やデフォルトで固定されてる場合は,画面解像度とは別にレンダリングの解像度(3D 解像度)の設定があれば,それを下げることで同等の効果が得られます。
解像度を下げて問題があるとしたら,境界部分のジャギーが目立つことが挙げられますが,アンチエイリアスを軽くかけることでほとんど目立たなくなります。TAA や FXAA などのポストプロセッシング系処理ならば,GPU にあまり負担をかけずに十分な効果が得られるでしょう。
Shadow of the Tomb Raider では,解像度を 2560×1600 まで上げると細部の描写は鮮明になるが,フレームレートは大幅に低下しプレイに支障が出るレベルになってしまう(画像のクリックで拡大)。グラフを見ると処理負荷が GPU に極端に偏っていて,CPU が全く仕事できてないことが読み取れる。 |
解像度を 1280×800 にまで下げれば CPU と GPU の負荷バランスが改善され,フレームレートはプレイ可能なレベル(30 fps 以上)を維持できるようになる。画像の細部は若干不鮮明になるが,ゲームに集中している間はあまり気にならない程度の劣化である。アンチエイリアスを TAA に設定すれば解像度低下に伴うジャギーを描画性能を犠牲にせずに緩和できる。 |
さらに描画速度を上げたいのなら「解像度の調整」で実効的な解像度を下げることもできる(画面は凡そ 640×400 相当にした場合の例)。ただし,画像は一見して分かる程度に劣化するので,描画速度とのトレードオフを考慮して慎重に選択されたい。 |
テクスチャー品質は具体的にはレンダリングの際に使われるテクスチャーの解像度ないしデータ量を決定する項目で,ゲーム画面の見栄えに大きく効いてくる要素です。
テクスチャー品質が下がると,地面に落ちてるアイテムや人肌・壁の質感など,実際のプレイで注意が向きやすい部分が不自然なほど粗略に描写されることになり,実感としては画面解像度とは比較にならないほどの画像劣化として感じられることになります。場合によっては看板の文字や隠し扉の手掛かりなど,ゲームのプレイ上必要な情報が得られ難くなる可能性もあります。そのため,スペックの許す限り最優先で上げておくべき設定項目です。
テクスチャー品質を上げると VRAM の使用量を増やすことになりますが,GPU 処理自体にはほとんど影響を与えないので,理論上はいくら上げても描画速度が下がることはありません。
現実的には VRAM 容量の制約を受けますが M1 チップはユニファイドメモリーによりメインメモリーの空き領域を全て VRAM として使うことができます。メモリーを 16 GB に増量したモデルなら,一般に 10 GB 以上の領域を VRAM として利用できることになるので,テクスチャー品質に関してはハイエンドクラスに相当するスペックとなります。
デフォルトの 8 GB であっても,VRAM 容量をケチる必要は全くありません。M1 Mac では洗練されたメモリー管理機構により,VRAM として必要なメモリーの空き領域を動的に増やせる仕組みが整っているからです。
よって,メモリー搭載量が 8 GB であっても 16 GB であっても,ほとんどのゲームではテクスチャー品質を最大値まで上げても VRAM 容量をオーバーすることはまずありません。
この M1 Mac の卓越したテクスチャー処理能力は,メモリーが 2〜6 GB しかない iPhone や iPad でデスクトップ並のハイスペックゲームが快適に動作していることを考えれば,別に驚くことではありません。Mac や他の Windows PC では画期的なことであっても,iPhone/iPad ではもう何年も前から実現されていたことなのです。Intel プロセッサーを採用していた Mac だけが,メモリーバブルの旧弊に囚われていたに過ぎません。
X-Plane 11 ではテクスチャー品質(質感)を最小にすると,機体のロゴや建物の細部などの画質が目立って劣化しているのが分かる。パネルに刻印された文字や滑走路番号が読み取れないのは,フライトシミュレーターとしては致命的。 |
テクスチャー品質を最大にすると必要な VRAM 容量は 5 GB を超えるが,メモリーが 16 GB あれば余裕で扱える。最小品質の場合と比べると画質の違いは明らかだが,フレームレート(左上の数値)には全く違いが見られない。 |
コアなゲーマーの中にはフレームレートに拘りがあって,高ければ高いほど良いという考えの人もいるかも知れません。しかし,M1 Mac では過度なフレームレートはチップの無駄な発熱とメモリーアクセスの集中を引き起こし,突発的な負荷増大に対応できなくなるなどの弊害を招きます。
平常時に何百 fps 出ようとも,近接戦闘発生時やボスキャラ登場時などゲームの重要局面で処理がガタ落ちしたのでは全く意味がありません。常に一杯一杯の限界で動作させるのではなく処理能力に余裕を持った設定にすることが,M1 チップの性能を有効に活かすには大切です。
一般にパソコン用のゲームソフトは,可能な限り高いフレームレートで描画処理を続けるように作られています。従来の独立型 GPU ならそれでも一向に構わないのですが,前述のように M1 チップでは GPU の過負荷を起こしやすくなります。また,MacBook 本体ディスプレイなど一般的なディスプレイのリフレッシュレートは 60 Hz なので,それ以上のフレームレートは無駄な処理になります。
フレームレート制限や VSYNC(垂直同期)などのオプションがあれば適用してみて,フレームレートを 60 fps に制限してみましょう。VSYNC はティアリング(フレーム描画ズレ)を防止するためのオプションですが,フレームレートをディスプレイのリフレッシュレートで制限する効果があります。
動きの少ないゲームや画面の動きが操作上あまり重要でないゲームなら,30 fps にしてもゲームのプレイに支障はないでしょう。フレームレート制限 30 fps オプションや VSYNC の 2 周同期(リフレッシュレート半減)オプションがあれば適用してみて,GPU の余裕を他の設定オプションに回した方が,ビジュアルを重視したゲームではむしろ望ましいかと思います。
Fortnite なら設定を絞れば 150 fps 越えも造作ないが,一般的なディスプレイだと 60 fps を超える部分は無駄な処理になってしまう。 |
グラフィック設定で最大フレームレートを設定しておけば,ほぼ 60 fps 固定で安定して闘える。さらに VSYNC をオンにすればティアリングを防止できる効果もあるが,ごく僅かな遅延が発生するので設定はお好みで。 |
Shadow of the Tomb Raider では VSYNC(垂直同期)でフレームレートをディスプレイのリフレッシュレート(一般には 60 fps)に制限できる。ただし M1 Mac では 60 fps に達するのは難しいので,画質重視と割り切ってリフレッシュレート半減(30 fps)を選択するのが得策。 |
Counter-Strike: Global Offensive は要求スペックが比較的低いゲームで,グラフィック設定を最高にしても 60 fps を軽く越えるため VSYNC(垂直同期を待機)によるフレームレート制限は必須。「ダブルバッファ」は通常の VSYNC と同じで「トリプルバッファ」はそれに加えて描画速度を安定させる効果がある。ただし若干の遅延が発生するためバトル系ではダブルバッファの方が好まれる。他にも「省エネモード」でフレームレートを 46 fps に制限できるオプションも別にある。 |
Cities: Skylines のようなシミュレーション系ゲームでは 30 fps あれば十分であるが,車両の追跡など画面を激しく動かすプレイをするなら 60 fps にしても GPU にはまだ余裕がある。垂直同期のオプションは「V ブランクごと」で 60 fps,「V ブランク 2 周ごと」で 30 fps に制限される(60 Hz ディスプレイの場合)。 |
具体的な個別のゲームで M1 Mac に最適なグラフィック設定を見出すには,各設定項目が M1 チップの動作にどう影響するかを見極めることが大切です。ゲーム動作におけるプロセッサーの性能を測る最も簡易な方法は,ゲームのフレームレートを測定することです。
多くのゲームではその目的のためにフレームレートを表示するオプションがあります。ゲーム固有の最適設定が確立できるまではフレームレート表示をオンにしながらゲームをプレイしてみて,設定や動作状況によってフレームレートがどのように変化するか観察してみましょう。一般のゲームの場合は 30 fps,一人称シューティングなど高度なアクションゲームの場合は 60 fps を大きく下回らないように設定するのが良いと思います。
多くの 3D アクション系ゲームでは,グラフィック設定の描画速度への影響を評価するためにフレームレート表示オプションが用意されている。Borderlands 3 の場合は「パフォーマンス数値」で表示内容を選択する。「すべて」を選択すれば CPU と GPU の負荷状況も表示できるので,より最適な設定の調整に有用。 |
X-Plane 11 の場合はデータ出力設定でコックピット表示を設定すればフレームレート表示が可能。データグラフ画面のオプションをオンにすればフレームレートの動向をグラフで観察できるようになる。 |
ゲームによってはコンソール画面のコマンド入力でフレームレート表示するものもあるので,ネットでその方法を調べてみよう。Counter-Strike: Global Offensive の場合は [`] キーでコンソール画面を開き「cl_showfps 1」と入力することでフレームレート表示が有効になる(非表示にするには「cl_showfps 0」)。 |
ただ,フレームレートの制限値を設定せずに動作させると GPU が 100 % フルに稼働し続けることになり,発熱の影響(MacBook の場合)やメモリーアクセスの集中などにより M1 Mac 本来の性能が発揮できない状態となります。より最適な設定値を見極めるには,前述のようにフレームレートを 60 fps ないし 30 fps に制限する設定をした上で,CPU や GPU にどの程度負荷がかかっているか測定するのをお勧めします。
ゲームによっては前出の Shadow of the Tomb Raider のベンチマークのように CPU と GPU の負荷状況をレポートするものもありますが,大抵の場合はそこまでの機能はありません。一般にプロセッサーの負荷を測定するには,macOS 標準のアクティビティモニタを使います。アクティビティモニタを裏で起動し,CPU 使用率および GPU 使用率の履歴を表示し,それぞれの負荷状況をグラフから読み取るわけです。アクティビティモニタを別ディスプレイに表示できるのなら,ゲームの動作状況をリアルタイムに観察できて便利です。
アクティビティモニタで「CPU の履歴」と「GPU の履歴」ウィンドウを開けば,それぞれの使用率をグラフで観察できる。CPU はコア 1〜4 が高効率コア,コア 5〜8 が高性能コアにあたる。GPU 使用率は 100 % に近付くとシステム全体の性能が低下するので 90 % を超えないように注意しながら設定値を調整してみよう。 |
一般的なゲームソフトでは CPU よりも GPU の方が負荷が過大になる傾向があるため,CPU と GPU にバランス良く負荷が振り分けられるように設定項目のチューニングするのが肝要です。
M1 チップでは CPU と GPU が同じチップに同居していて,熱容量とメモリーアクセスを共用しているということを思い出して下さい。GPU だけが頑張り過ぎてスタンドプレーに走れば,システム全体の足を引っ張ることになるわけです。GPU 使用率の傾向には特に注意を払って,平常時に 90 % を超えることのないように調整してみましょう。
一方,Metal API に対応したゲームでは高度な設定項目でも CPU と GPU の協調動作により効率的に処理できるため,オンにしても GPU にあまり負荷をかけない設定項目も多くあります。場合によっては CPU と GPU の負荷バランスが改善されて描画速度が向上することもあり得ます。
どのような設定項目が GPU に負荷をかけないのかはゲームの処理方式によって様々で,GPU 使用率などを見ながら都度試してみるしかありません。例えば同じ「エフェクト」と称する設定項目でも,あるゲームでは GPU に全く負荷をかけないこともありますが,別のゲームでは過大な負荷をかけることもあります。
例えば Fortnite の場合は「描画距離」「アンチエイリアス」「テクスチャ」は GPU にほとんど負荷をかけないため,全て最高設定にしても GPU には常に余裕があり上限として設定したフレームレートを終始維持することができる。 |
一方,「影」「エフェクト」「ポストプロセス」は GPU に相当の負荷をかけるので,少し上げただけでも GPU が過負荷になりゲームの重要局面でフレームレートを維持できなくなる。MacBook Air では熱的な限界に達してさらに性能低下の悪循環に陥ることも。 |
グラフィック設定まとめ
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M1 Mac の真価は性能だけではありません。省電力性こそが真骨頂です。というわけで,次回は設定指南の続編として電力消費を極力抑えてバッテリー持続力を上げるためのグラフィック設定を探究してみましょう。MacBook Air/Pro をお使いの場合はもちろん,バッテリーの関係ない Mac mini でも暑い季節の到来に備えて発熱を抑える方法を知っておくのも良いでしょう。
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